八百屋さん
近頃野菜を買うのはもっぱら八百屋さんであります。
引っ越してきてから5年間、買い物は自宅のアパートに近いスーパーマーケットで済ませていました。
バスで町へ出るとき、とおりに面しているその八百屋さんの前を通ります。
八百屋さんの脇には大きなサクラの木が立ち、そのために屋根が刳り貫かれています。
春になると大きく広げた枝にたっぷり花を咲かせてその木の下で八百屋さんもいつも以上に忙しそうにいます。
ふと、その八百屋さんで買ってみようと思いました。
野菜はなるべく国産のものをと選んでいる（人間は住んでいるその土地で穫れた作物を口にするのが体に一番良いと聞いたことがあって）ので
産地の書いてないものを訊ねると
店のご主人がうちは全部国産ですよと胸を張りました。よく見るとスーパーよりもお手頃なものが結構あります。
あれもこれもと買っているうちに帰りは大変重たい思いをしました。
この前は夕方出かけてゆきました。裸電球の黄色い灯りがともっていて、蚊取り線香の匂いがしました。
屋根の上にある枝は見えませんが大きなサクラの幹が店の端にドンと座っています。
ひととおり買い物を済ませてレジで精算をしながらご主人が野菜のひとつを値引きしてくれました。
どっしり抱えてお店を出るときレジの方からご主人が他のお客さんに「これはねえ、三鷹で採れたキイウィだよ。2個百円で良いよ。」というのが
聞こえてきました。
えっ三鷹で採れたキーウィがおてごろなの！ワタシモタベタイ！と思いましたがちょっとはずかしくて言えずにそのまま帰ってきました。
こういう時、見栄っ張りは損をします。
夏には夏のお野菜が並びます。とうもろこしやサヤインゲン旬のモノも教えてもらってしずかなシアワセを感じています。
きょうは無農薬のシソの葉をもらってきました。
おばあちゃんがいろいろたくさん選んでいるのでご主人がそんなに買うと重たくてもてなくなるよと言っているのが聞こえました。
おなじみさんのようです。
家人は八百屋さんのとうもろこしがいたく気に入っています。スーパーで買ったものと甘さが格段に違うらしいのです。
枝豆も枝についたものを買ってきて塩ゆでしてそのまま頂いたり、みょうがとしらがねぎ、
とうばんじゃんと少しのおしょうゆとラー油を枝豆とあわせて酒の肴にしたりしています。
さやいんげんも筋を取ったものを素揚げにして塩コショウをふりかけただけのものがお気に入りです。
「毎度ありがとうございます」
店のご主人のこの言葉も普段から色々なところで聞き慣れているはずですが、
マニュアルに書いてあるものを教えられたとおりに言うのを聞くのとは何か違うものを感じます。
どうして今まで来なかったんだろう。こういうお店好きだなあ、やっぱり。